生田流・山田流箏曲が四季の移ろいを表す音楽だとすれば、琉球箏曲(沖縄の箏)は温暖な気候・風土を表した音楽と言えるかもしれません。全く同じ楽器を使っているのにも関わらず違ったものになる理由とは…今回は日本箏と比較した琉球箏曲の特徴をお話します。
◼ 琉球箏曲と生田流・山田流箏曲の違い
*爪の違い
箏を解説した書籍では、生田流箏曲の爪は四角い「角爪」。山田流箏曲のは「丸爪」と表現されます。琉球箏曲の場合は、その中間にあるような楕円形をしています。角のない爪であるため、まろやかで音色が柔らかいのが特徴です。
*絃の張り
琉球箏曲では本土のお箏に比べて、絃を全体的にゆるく張っていて、17号や17.5号を使用しています。角のない爪、そして全体的に緩い張りのお箏であるため、空間を包み込むような温かい音色であるのが琉球箏曲の最大の特徴です。
*調弦の違い
調弦は半音を含まない陽音階で、本土の箏曲の調弦に比べて明るく聴こえます。一説では筑紫流箏曲の基本調弦と大方同じで、箏曲の古態を保っていると言われています。現代邦楽の父・宮城道雄が、大湾ユキらとの対談で琉球箏曲の演奏を聴き「筑紫流のもの」と言ったという話は大変有名です。(宮城道雄会館にお写真がありました。)
基本的には三線に合わせて調弦をとり、曲ごとに調弦が変わります、詳細は末尾にのせています。
*奏法
琉球箏曲では、左手で絃をたたく(揺らす)装飾方法が特徴的と言えます。詳しくは以下の動画で解説しているのでご覧ください。
■ 使用される楽器
琉球箏曲では、基本的に本土の箏曲と同じ楽器を使用しています。三線は沖縄で職人が手作りしていますが、箏の職人はおらず、本土で製造された楽器を移入しています。現在は内地の箏曲でも、音量が大きく豊かな音色であるという理由から山田箏(6尺=180cm)が使用されていますが、沖縄では現在も生田箏(6尺3寸=191cm)を使用する演奏家もいます。
通常よく目にするお箏を「素箏」というのに対して、螺鈿や蒔絵の装飾が入った箏を「飾箏」と言います(俗に「長磯」とも)。飾箏は装飾によって「大磯」「小磯」「長磯」と呼び方が異なります。
琉球箏曲で使用される箏
素箏 山田箏(6尺=180cm)
生田箏(6尺3寸=191cm)
飾箏 大磯、小磯、長磯
■ 長磯箏で演奏する文化
琉球箏曲では、格式のある舞台において「長磯箏」で演奏するという慣例が今も残っています。周年記念公演などの節目の舞台や、「黒朝衣・ハチマチ」(琉球王朝時代の士族の冠服)を着て演奏する組踊の舞台では「長磯箏」で演奏されることが多くあります。
■ 琉球箏曲の調弦
沖縄の箏の調弦は、基本的に三線に合わせて《本調子》と《ニ揚げ調子》に大別されます。
- 《本調子》…三線の一番基本的な調弦
- 《ニ揚げ調子》…中絃を一音上げた調弦(本調子を完全五度上げた調弦)
また三線の調弦が本調子の場合、箏の調弦はさらに細かく以下のように分かれます。
*三線が本調子「CFC」の場合の(一)〜(巾)
〈本調子〉FB♭CDFGB♭CDFGB♭C
琉球古典箏曲(瀧落菅攪、船頭節など)
〈本調子〉FBCDFGBCDFGBC
かぎやで風節、恩納節、謝敷節など
〈二弦上げ〉FBCEFGBCEFGBC
花風節、こてい節、作田節など
〈四弦アゲ〉FB♭CEFAB♭CEFAB♭C
踊こはでさ節、瓦屋節、暁節など
〈為サゲ〉FACDFGACDFGAC
鳩間節、松本節、安波節など
*三線が二揚げ「CGC」の場合の(一)〜(巾)
〈ニ揚げ・本調子〉CDF♯ACDF♯GACDF♯G
仲風節、子持節など
〈ニ揚げ・二弦上げ〉CDF♯BCDF♯GBCDF♯G
述懐節、浜千鳥節など
〈三下げ〉CDFACDFGACDFG
谷茶前節、汀間当節など
こちらもYouTubeで具体的に紹介しています。
記事:リュウカツチュウ 町田倫士